病棟に配属されて、さまざまな患者さんに対して服薬指導を行なっていましたが、最も多い相談が「便秘」だと感じます。みなさんはいかがでしょうか。
入院患者さんは検査や治療を目的に入院されるため、主治医に対して入院目的に関係する相談や質問をすることが多いです。
私が患者さんの病室へ伺うと、
先生には話してないんだけど、便がしばらく出ていないんです。
そういった相談が多いです。
入院することによって、生活環境の変化によるストレスや食事の変化、運動量の低下などで便秘になる患者さんが多くいます。
さらに、入院患者さんのほとんどが高齢者もしくは後期高齢者です。
加齢に伴い便秘症になることが知られています。
ここ数年、新規で薬価収載された便秘改善薬がいくつかあります。
新規便秘薬を理解し、必要に応じて処方提案できるようにとまとめてみました。
便秘とは?
『慢性便秘症診療ガイドライン2017』によると、
「便秘とは本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
その症状として、以下のようなものがあります。
・排便回数減少によるもの(腹痛、腹部膨満感)
・硬便によるもの(排便困難)
・便排出障害によるもの(過度の怒責、残便感とそのための頻回便)
個人的には「快適に」の言葉が印象的でした。
個々で便秘に対する捉え方が異なるので、患者さんに合わせて薬剤選択する必要があります。
便秘症の分類
便秘症には大きく分けて器質性便秘と機能性便秘の2つに分類されます。
器質性便秘
大腸の形態的変化を伴う便秘のことです。
狭窄性
糞便の通過が物理的に障害された状態を指します。
主な原因としては、大腸がんや腹腔内腫瘍などの腫瘍性病変によるもの、クローン病や潰瘍性大腸炎などの非腫瘍性病変によるものがあります。
非狭窄性
狭窄はないものの、大腸の形態的変化によって生じる便秘です。
・排便回数減少型:巨大結腸などの腸管が著明な拡張を呈し、糞便の大腸通過が遅延した状態
・排便困難型:直腸の形態的変化で起こる病態。直腸瘤、直腸重積、巨大直腸など
機能性便秘
大腸の形態的変化を伴わない便秘のことです。
排便回数減少型
結腸内糞便の停滞時間が長いため、硬便化して排便困難を生じる。
原因としては、
遅延型(特発性、薬剤性、症候性) 大腸での通過が遅延する。
正常型 食事内容などに惹起される。
などがあります。
排便困難型
排便時に直腸内の糞便を十分量かつ快適に排出できない状態のこと。
原因としては、
便秘型過敏性腸症候群:大腸通過が正常
骨盤底筋協調運動障害
腹圧低下
直腸感覚低下
機能性便排出障害:直腸収縮力低下
などがあります。
便秘治療薬の基本
非刺激性下剤と刺激性下剤の使用法
下剤治療の基本は、
排便回数:2回/日〜1回/2日
便性:ブリストル便性状スケールでタイプ3〜5
に調整します。
排便回数減少型の便秘症には酸化マグネシウムが第一選択となります。
1日2gまで増量しても十分な効果が得られない場合は、刺激性下剤であるセンノシドの内服を開始します。
その際、非刺激性下剤の内服継続は必要となります。
正常な便秘回数は3回/週〜3回/日であり、腹痛などの症状がない限りは安易な下剤の増量や乱用を控えるべきです。
刺激性下剤のレスキューが頻回となった際には、非刺激性下剤の追加を行い、再度酸化マグネシウムの増減やセンノシドのレスキューで調節してもらいます。
膨張性下剤の適応と使用法
非刺激性下剤で軟便化しても排便回数が週に3回未満と少ない場合は、食物繊維の摂取量が少ない可能性を考慮し、栄養指導にて食物繊維の摂取量の適正化を行うか、糞便量を増加させるカルメロース(バルコーゼ®︎)やポリカルボフィルカルシウム(コロネル®︎、ポリフル®︎)を使用します。
治療後も排便困難間や残便感がある場合
器質性便排出障害や骨盤底筋協調運動障害などの機能性便排出障害が原因の可能性があります。
その際は専門医への紹介を考慮する必要があります。
便秘治療薬の選択
酸化マグネシウム(マグミット®︎)
機能性の排便回数減少型便秘に対する第一選択薬です。硬便の患者さんに使用します。
用法用量 | 1日2gを食前または食後の3回に分割投与するか、就寝前に1回投与する。 |
作用機序 | ①酸化マグネシウム(MgO)が胃酸(HCl)で塩化マグネシウム(MgCl2)に変換される。 ②膵液と反応して重炭酸マグネシウム(Mg(HCO3)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)に変換される。 ③Mg(HCO3)2やMgCO3が腸壁から浸透圧によって水分を引き寄せる。 腸管内容物が膨張し腸管を刺激することで排便を促す。 |
副作用 | 副作用発生頻度が明確となる調査を実施していないため、正確な副作用頻度は不明。 高マグネシウム血症(悪心・嘔吐、徐脈性不整脈による心停止)に注意。 |
注意点 | 定期的な血清マグネシウム濃度の測定をすることが推奨されている。 キレート形成や胃内pHの上昇などで相互作用が多い。 |
安全性の高い薬剤であること、用量調節がしやすいことなどから第一選択薬となります。
だたし、腎機能障害患者で高マグネシウム血症のリスクが高くなるので注意が必要です。
大腸刺激性下剤
センナ類(プルゼニド®︎、アローゼン®︎など)があります。
用法用量 | プルゼニド®︎:1日1回12〜24mgを就寝前に経口投与する。最大1回48mgまで増量可。 アローゼン®︎:1回0.5〜1.0gを1日1〜2回経口投与する。年齢、症状により適宜増減する。 |
作用機序 | 腸内細菌による加水分解を受けて活性体のレインアンスロンとなり、蠕動運動を亢進させる。 作用発現は投与後8〜10時間。 |
副作用 | 腹痛(11.9%)、下痢( 1.1%)、腹鳴(0.8%)、悪心・嘔吐(0.8%) |
注意点 | 長期服用により、大腸壁が黒く色素沈着し肥大化する大腸メラノーシスを呈する。 大腸の動きが悪化、便秘症状悪化、緩下剤の反応性が低下する。 |
漫然と内服するのではなく、レスキューとして頓用する方が良いですね。
ルビプロストン(アミティーザ®︎)
32年ぶりの新薬として2012年11月に発売されました。
用法用量 | 1回24μgを1日2回、朝食後および夕食後に経口投与 症状により適宜増減 |
作用機序 | 小腸粘膜上皮細胞上のクロライドイオンチャネル(ClC-2)を活性化し、腸管内への水分分泌を促進する。 それにより便が軟らかくなり、また腸管内の輸送が改善されることで、排便を促進する。 |
副作用 | 下痢(30%)、悪心(23%)など |
注意点 | 胎児への移行、胎児喪失、乳汁中への移行が報告されている(動物実験)ため、妊婦には禁忌。 |
便を軟らかくし、小腸にも優しい薬なので硬便の患者に使いましょう。
吐き気は食後内服で軽減することができます。
下痢や悪心などの副作用の訴えが多く聞かれましたが、
2018年には12μg規格も承認・発売され用量調整がしやすくなりました。
リナクロチド(リンゼス®︎)
2017年3月に便秘型過敏性腸症候群の適応で発売され、2018年8月には慢性便秘症に対して追加承認されました。
ペプチド製剤のため体内に吸収されず、電解質以上も起こさないと報告があります。
用法用量 | 1回0.5mgを1日1回、食前に経口投与 症状により0.25mgに減量する。 |
作用機序 | 粘膜上皮機能変容薬の一種で、腸管の管腔表面の受容体を活性化させることで腸管内の水分分泌を促進する。 求心性神経の痛覚過敏も合わせて改善する。 |
副作用 | 下痢(9.2%) |
注意点 | 妊婦・授乳婦への投与は有益性投与となっている。 |
痛覚過敏の改善が認められるため、便秘による腹痛を訴える患者に対して有用です。
食後内服の場合、下痢を起こす頻度が高いため食前内服となっています。
エロビキシバット(グーフィス®︎)
用法用量 | 1回10mgを1日1回食前に経口投与 症状により適宜増減、最大用量は1日15mg |
作用機序 | 回腸末端部の上皮細胞にある胆汁酸トランスポーターを阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制します。 胆汁酸は大腸管腔内では水分を分泌させると同時に、消化管運動を促進させる役割を持ちます。 |
副作用 | 腹痛(19.0%)、下痢(15.7%) |
注意点 | 胆道閉塞や胆汁酸分泌低下の患者では効果が期待できない。 ウルソ®︎などの胆汁酸製剤の作用が減弱する可能性がある。 |
食事をすることで胆汁酸が分泌されます。
胆汁酸が分泌される前にトランスポーターを阻害することで、薬効を効率的に得ることができます。
マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散(モビコール®︎)
英国では1995年に発売され、2002年には12歳未満の小児にも承認されています。
用法用量 | 1回2包を1日1回から開始し、症状に応じて増減します。最大で1日6包まで増量可能です。 1包あたりコップ1/3杯(60mL)程度の水や飲料に溶解して服用します。 2歳以上の小児にも適応があります。 |
作用機序 | 高分子化合物であるPEG製剤(マクロゴール4000)の浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させます。 便中水分量の増加、軟便化、便容積の増大が生じる。生理的に大腸の蠕動運動が活発化し排便が促されます。 |
副作用 | 下痢(3.6%)、腹痛(3.6%) |
注意点 | PEG製剤を溶解した水分はほとんど吸収されないので、適切な水分摂取が必要となります。 |
溶解して1日かけてゆっくり飲めるので、お腹がいっぱいで飲めないと言うことはなさそうです。
以下の飲み合わせ表を参考にして、患者さんと一緒に具体的に溶解する飲料水を提案すると良いでしょう。
まとめ
まずは酸化マグネシウムを検討する。
大腸刺激性下剤をレスキューとして使用する。
それでも改善しない場合は、その他の便秘治療薬へ変更もしくは追加する。
硬便の場合はアミティーザ®︎を考慮する。
グーフィス®︎は硬便かつ蠕動運動が緩慢な場合に検討する。
腹痛や腹部膨満感がある場合はリンゼス®︎を考慮する。
小児にも適応があるモビコール®︎は安全性も高い。
参考
各薬剤添付文書
(マグミット®︎、プルゼニド®︎、アローゼン®︎、アミティーザ®︎、リンゼス®︎、グーフィス®︎、モビコール®︎)
日本大腸肛門病会誌 72:583-599,2019
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