この記事はエンレスト®︎錠についての記事です。
新しい心不全の薬が出たらしいけど、どんな薬なの?
そういった疑問を解決します。
エンレスト®錠ってどんな薬?
一言でいうと、、、
ARBのバルサルタンとネプリライシン阻害薬のサクビトリルを配合
ARBは降圧薬として多く使用されていますが、ネプリライシン阻害薬はどのような薬効を示すのでしょうか?
また、どうしてサクビトリルだけの製剤ではなく、サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物として発売されたのでしょうか?
確認していきましょう。
エンレスト®の特徴
結論からいうと、
ネプリライシンを阻害する事でナトリウム利尿ペプチドの作用を高める事で心保護作用を示す。
では、詳細をみていきましょう。
慢性心不全の病態について
エンレスト®について話す前に心不全の病態について確認しましょう。
慢性心不全の定義
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)のよると
ガイドラインとしての定義は、
なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に 器質的および / あるいは機能的異常が生じて 心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼 吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い 運動耐容能が低下する臨床症候群。
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
一般向けの定義として、
心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだんわるくなり、生命を縮める病気です。
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
となっています。
要するに、ポンプの機能としての心臓の役割を果たせなくなり、全身への血液の循環が滞る事で、さまざまな症状を呈する病態です。
心不全では左室機能の障害が関与している症例が多く、現在では左室駆出率(LVEF)による分類が用いられるようになりました。
定義 | 略語 | LVEF | 説明 |
---|---|---|---|
LVEFの低下した心不全 | HFrEF | 40%未満 | 収縮不全が主体 |
LVEFの保たれた心不全 | HEpEF | 50%以上 | 拡張不全が主体 |
実際ガイドライン上では上記以外にも、
HFmrEF(LVEFが軽度低下した心不全)
HFrecEF(LVEFが改善した心不全)
などの定義があるようですが、臨床的な特徴や予後は研究が不十分であり、今回は省略します。
心不全のステージ分類
心不全は多くの分類基準があります。
心不全の進行の程度は、ACCF/AHAの心不全ステージ分類が用いられています。
また、運動耐容能を示すNYHA心機能分類も頻用されています。
心不全ステージ分類とNYHA心機能分類の対比
心不全の症状
心機能の低下に伴い、さまざまな症状を現れます。
●十分な血液を全身へ送り出せないことによる症状
- 疲れやすい
- 手足が冷たい
- 尿量が少ない など
●心臓に血液が戻りにくいことによる症状
- 浮腫
- 体重増加
- 呼吸困難 など
慢性心不全に影響を与える因子
心不全の発症と進展に影響を与える神経体液性因子として3つあります。
- 交感神経系
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系
- ナトリウム利尿ペプチド
上記のうち交感神経系とRAA系は、心機能が低下する事に対する代償機構として働きます。
全身への血液を送り出すために、血圧や脈拍を上昇させる作用があります。
ただし、これらが作用する事で心臓への負担が増大してしまいます。
要するに、心臓を無理やり動かすという事です。
ヘトヘトになった心臓に、もっと働け!とムチを打っている状態です。
さらに心肥大や線維化を引き起こし、心不全進行への悪循環となってしまいます。
交感神経系
- 血管抵抗⬆
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系活性⬆
- バソプレシン⬆
- 心拍数⬆
- 収縮性⬆
交感神経系による上記作用を抑制するために用いられる薬剤はβ遮断薬です。
代表的な薬剤としては、
- カルベジロール(アーチスト®)
- ビソプロロール(メインテート®)
などがあります。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系
- 血管抵抗⬆
- 血圧⬆
- 交感神経緊張⬆
- アルドステロン⬆
- 肥大⬆
- 線維化⬆
RAA系による上記作用を抑制するために用いられる薬剤はACE阻害薬、ARB、MRAなどです。
ナトリウム利尿ペプチド
逆に心臓の負担の軽減に働くのがナトリウム利尿ペプチドです。
ナトリウム利尿ペプチドの作用は交感神経系とRAA系と相反します。
つまり血管抵抗を改善したり、循環血液量を低下させる事で血圧を下げます。
心肥大や線維化の抑制も認められています。
- 血管抵抗⬇
- 血圧⬇
- 交感神経緊張⬇
- ナトリウム利尿/利尿⬆
- バソプレシン⬇
- アルドステロン⬇
- 肥大⬇
- 線維化⬇
心不全治療の現状
心不全治療薬としてACEiやARB、βブロッカーがある。広く汎用されています。
しかし、予後改善や再入院には課題が残っています。
ここ10年間、再入院が改善しておらず、4人のうち1人は1年以内に再入院を繰り返しているのが現状です。
エンレスト®錠が予後改善効果が期待されています。
僕の病院では、循環器内科の医師が発売前から採用申請を出していました。
そのくらい期待されている事が感じ取れます。
作用機序
まずは、ネプリライシンとは何か確認しましょう。
ネプリライシンはさまざまなペプチドを分解する酵素です。
その基質には、心不全に関連のあるナトリウム利尿ペプチドやアンギオテンシンⅡがあります。
エンレスト®が投与されると、サクビトリルとバルサルタンに解離してそれぞれが作用します。
サクビトリルは活性体へ変換されてネプリライシンの作用を阻害します。
ネプリライシンのペプチド分解作用が抑制されて、ナトリウム利尿ペプチドの作用を増強します。
結果として血圧低下や心肥大抑制、線維化抑制などの心保護作用を示します。
ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制する一方で、アンギオテンシンⅡの分解も抑制してしまうため、RAA系が亢進してしまいます。
RAA系が亢進すると、血圧上昇や心リモデリングが促進されてしまいます。
このデメリットを改善するために、本剤はARBであるバルサルタンを配合されています。
臨床試験 PARADIGM-HF(海外第III相試験)
臨床試験の結果も簡単に確認していきましょう。
目的
心血管死および心不全による入院からなる複合エンドポイントの初回発現までの時間を指標として、エエンレストのナラプリルに対する優越性を検証という内容になっています。
対象
18歳以上、NYHA心機能分類Ⅱ〜Ⅳ度、外来HErEF患者8,442例
となっています。
主な選択基準は以下の通りです。
- LVEF≦35%
- BNP≧150pg/mLまたはNT-proBNP≧600pg/mL
- ACE阻害薬1剤またはARB1剤の投与を受けている
- β遮断薬の投与を受けている
方法
単盲検実薬投与観察期で各薬剤の目標用量(エナラプリル10mg1日2回またはエンレスト200mg1日2回)による最低2週間の投与に対して忍容であった被験者をエンレスト群(エンレスト200mg 1日2回)またはエナラプリル群(エナラプリル10mg 1日2回)のいずれかに1:1の比でランダム化した。
結果
心血管死および心不全による初回入院
「心血管死および心不全による初回入院」の発現リスクを、
エナラプリルと比較して20%有意に低減した事が示されました。
NT-proBNPへの影響
エンレストは、NT-proBNPを4週時、8ヶ月時にエナラプリルに対して有意に低減したと結論づけらています。
エンレスト投与群 | エナラプリル投与群 | 群間比較 | |
対ベースライン比 | 対ベースライン比 | p値 | |
4週時 | 0.6828 | 0.9257 | <0.0001 |
8ヶ月時 | 0.6513 | 0.8655 | <0.0001 |
医薬品情報
効能又は効果
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的治療を受けている患者に限る。
つまり、心不全治療として1st lineとして投与する事はできない事になります。
禁忌
- 過敏症
- ACEiは併用禁忌、36時間以内の患者
- 血管浮腫の既往
- ラジレス服用中のDM患者
- 重度肝機能障害(Child-Pugh 分類C)
- 妊娠または妊娠している可能性のある女性
用法用量
規格は50、100、200mgの3規格があります。
導入期の開始用量は、1回50mg 1日2回 となっています。
導入の際は、ACE阻害薬がエンレスト開始から少なくとも36時間前に中止していることに注意してください。
これは血管浮腫のリスクを回避する目的があります。
忍容性が認められれば、段階的(2〜4週間)に
1回50mg 1日2回 → 1回100mg 1日2回 → 1回200mg 1日2回
へ増量します。
なお、忍容性の応じて適宜減量するとされています。
100mg以上を使用の際は、50mg規格を使用しないこととされています。
これは規格間での同等性は検証されていないためです。
期間 | 導入期 | 忍容性が認められる場合 | |
---|---|---|---|
2〜4週間 | 2〜4週間 | 2〜4週間 | |
用法用量 | 1回 50mg | 1回 100mg | 1回 200mg |
1日2回 | |||
備考 | ACE阻害薬は少なくとも36時間前に中止していること。 | 50mg規格を使用しないこと。 *規格間の同等性は検証されていない。 |
エンレスト®を増量する際は注意が必要ですね。
副作用
エナラプリルと比較して、低血圧には注意が必要です。
PARADIGM−HF試験では、低血圧の発現率がエナラプリル群よりもエンレスト群で多い事が示されました。
低血圧のリスクが高い患者は以下のとおりです。
上記に当てはまる項目があれば、こまめに血圧のモニタリングする事を推奨します。
その他には、血管浮腫、腎機能障害、腎不全、高カリウム血症などがあります。
エンレスト®は心不全治療において期待大!
エンレスト®はナトリウム利尿ペプチドをターゲットとした新規作用機序の心不全治療薬です。
ネプリライシン阻害作用により、ナトリウム利尿ペプチドの心保護作用を示します。
ただし、低血圧や血管浮腫には注意が必要です。
今後どんどん処方件数が増えていくと思いますので、ぜひこの記事を読んで日々の業務に役立ていただければと思います。
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